拝啓 先日、新聞紙面で啓蟄-けいちつ-という言葉を目にしました。なんでも、冬ごもりしていた虫が這い出してくるという意味で、二十四気のひとつ、陽暦の三月五日前後を指すのだそうです。いかにも春の訪れとともに生き物が活発に動き出すさまが想像されます。春意ようやく動き始めた今日この頃、皆様お元気でお過ごしでしょうか。
温暖の地、静岡から春の訪れを告げる話題をもうひとつ。ご存知のとおり、弊社「臥龍梅」の銘柄のいわれは、蔵の近隣の禅寺、清見寺-せいけんじ-の庭に家康が植えたと伝えられる梅に由来しております。樹齢400年のその老木が今年も花を咲かせてくれました。毎年なかなか咲かず、やきもきするのですが、今年は寒さが遅くまで続いたせいか、他の梅と同時期の開花です。とは言え、何にでも寿命はあります。清見寺の梅とて例外ではありません。もしも枯れてしまったらどうしようと思っていたところ、熱心な愛好家の方が親切にも「臥龍梅」の苗木を贈ってくださいました。そんな次第で、自宅の庭に植えた可愛らしい臥龍梅をご覧ください(2枚目の写真)。この梅が清見寺の梅に負けない大木に育つまで「臥龍梅」ブランドを育ててゆくつもりです。さて、その若木の横に咲いているのが「鶯宿梅-おうしゅくばい-」です(3枚目の写真)。今から三百年以上前、当家の初代市兵衛が良水を授けたまえと稲荷大明神に願いをかけたところ、鶯が裏山の梅の枝に止まる夢を見ました。そこで、その近くを掘ってみると良い水が湧き出たことから酒造りを始め、「鶯宿梅」と名づけて売り始めたのが当蔵の起源と伝えられています。
さて、今月の蔵人紹介コーナーは、当社に蔵入りして今年で五年目の畠山智幸(はたけやま ともゆき)君です。担当は蒸番(かまやさん)です。(ご出身は?) 生まれも育ちも岩手県花巻市です。(どんな所ですか?) 駅のすぐ近くで便利な所です。(なるほど、蔵の近辺の方がよほど田舎で不便、娯楽も少なくて退屈という訳ですね。失礼しました。お生まれは?) 昭和55年ですので、今年28歳になります。蔵に入ったのは当社が初めてです。
(たしか、5年前に23歳で蔵入りしたときには、南部杜氏協会で最年少の会員と聞きましたが?) 今でも、県外会員は別として、岩手出身で出稼ぎに出て働く会員としては一番若い方だと思います。回りは年配の人ばかりで、若い仲間はほとんどいません。(酒造りはどんな仕事ですか?) まだ判らないことが多くて勉強です。(夏場、岩手ではどんな仕事をされていますか?) 菅原杜氏さんと同じ職場で植木の剪定の仕事をしています。(杜氏さんにスカウトされたのですか?) 自分から酒屋の仕事を探していたところ、たまたますぐ近くに菅原杜氏さんがいて、それが出会いでこの蔵に来ることになりました。(最後に、全国の皆様へ向けて一言メッセージを!) 嫁さん募集中ですのでよろしく!
さて、今月はいよいよお待ちかね、酒米の王様「山田錦」を用いた純米吟醸酒をご案内いたします。毎度のことながら、袋吊り雫酒はごく少量の限定生産ですので是非ともお早めにお求めください。
早春の候、皆々様にはますますお元気で過ごされんことを。            敬具                            
平成二十年三月吉日                           鈴木克昌

戻る